【F04】戦士の帰還 いつも勝手なんだから。 怒ったように呟いて彼女は遠くを見つめる。いつものようにゴールゲート前に陣取ってはみたものの、歓声はまだ遠く下の方から聞こえてきていた。周りで同じように待っている人々が何と言っているのかは分から... >>>続きを読む
【F03】とてつもなく空 今日も空が低い。 箱根の山も真夏になると、手が届きそうなほど雲が低く、飲み込まれるように青かったが、ここフランスのプロヴァンス地方では、それは殊更だった。 「お疲れさまでーす、東堂さん」 レースも後半だというのに、... >>>続きを読む
【F02】これから 見上げてみろっショ、って。 小野田がそう話し始めた横で、今泉は呼吸を整えながらボトルをくわえた。指で押さえて流し込むと、寒風を吸い込んで乾いた喉に、ドリンクはここちよく沁みた。 見上げてみろーーー声が、耳の奥で囁く... >>>続きを読む
【F01】きっと海にいる 窓ガラス越しの空は、色褪せて見える。青は鈍く、雲がのっぺりと貼り付いていた。太陽は、まるで静止画のようだ。 「予定通り終わらなかったので、次の授業は早足で進めます」 授業の終わりを告げる教師の声が一際大きく響き、真波... >>>続きを読む
【E04】ダサTグランプリ いったいどうしてこんなことになったのか。 実家のタンスを漁りながらオレは大きくため息をついた。 事の発端は隼人だ。 部活前、着替えの途中で隼人が下級生の女子から呼び出されたらしい。彼女たちは申し訳なさそう... >>>続きを読む
【E03】うつせみの空 ツクツクボウシが、鳴いている。 「なぁなぁ、段竹、いいだろ?」 「よくない。まず自分でやれよ」 「だってよぉ、夏休み全っ然休みじゃなかったじゃんか、オレら」 それはこちらも条件は同じだろう、そう返そうとして口を噤んだ... >>>続きを読む
【E02】ゆびきりげんまん その空色のバイクは寿一が始めて手に入れた自分のロードバイクだった。 福富寿一は四歳のときからロードに乗っている。寿一は父がプロのロードレーサーという恵まれた環境であったので福富家にはロードバイク及びそのパーツがた... >>>続きを読む
【E01】降り続く雨にボクたちは 2回目のインターハイに向けて、チーム一丸となって練習を重ねる6月。 ボクたち総北自転車競技部は、梅雨時であっても練習のペダルを止めたりしない。他の陸上競技と違って、自転車競技に天候は関係ないからだ。 5日も雨が降り... >>>続きを読む
【D05】ふたりは同じ空を見ている 辻明久と水田信行は京都伏見高等学校自転車競技部の部員である。二人の共通点はそれだけであり、外見、性格ともに正反対である。ほとんど一致しない。そして当人同士がそれを面白がっている節があった。 「辻さんとオレって、身長差が結... >>>続きを読む
【D04】青色が燃えている 青色が燃えていた。 木々の青々とした姿に炎を見出だしたのは単なる灼熱の幻影で、日陰を作り、束の間の冷気を与えてくれるはずのそれを見間違うなんて馬鹿げているなんて思うけれど、振り返って脳を通して映し出される映像は一面の... >>>続きを読む
【D03】だって彼は、 『××ロードレースはまもなくスタートいたします。選手の皆さまはスタート前にお集まりください……――』 頭上に、綺麗に乾いた空が広がっている。 顎の下でメットのバンドを留め、グローブを嵌める。全部の準備を終... >>>続きを読む
【D02】再びはばたくために。 前略 傷の具合はどうだ?痕は残らなかっただろうか? まずは文也、お前に謝らなければならない。 そう言うとお前はきっと否定する。謝罪など必要ない、自分が勝手にやったことだと。 だから、そうだな。面と向かってはもちろ... >>>続きを読む
【D01】頂上にはみせたい空 珍しく遅刻をせずに部活にやってきた後輩が、弾むような足取りで近づいてきた。今日の練習メニューを確認していたオレは、塔一郎のおはよう真波、という穏やかな声で振り向く。 「黒田さん、良い天気ですね」 「そうだな」 窓から見え... >>>続きを読む
【C05】空色の自転車 『空色の自転車 四年一組 福富寿一 走っていく。 空色の自転車が走っていく。 空を目指して走っていく。 重力を振り切り、てっぺんを目指すのだ。 空色の自転車がゴールへ飛び込む。 空へと飛び... >>>続きを読む
【C04】PRIDE こ、こ、こん。 夕食後、消灯前、寮の一室に、ノック音。 「ん、黒田か。入ってこい」 「失礼します。なんで分かったんですか。忍者だから足音で判別できるんすか」 「だれが忍者だ、だれが。ノック三回すんのはおまえと泉田くら... >>>続きを読む
【C03】Can be a hero 真波山岳は俺たちの代のヒーローだった。 入部当初から噂にはなっていた。練習に真面目に参加しない、遅刻する、部室にまで彼女が顔を出し世話を焼いてくれるというのに当の本人は行方知れず。なのに才能だけはずば抜けている。... >>>続きを読む
【C02】ミツバチの羽ばたき おつかれ、なんだ荒北も山本さんのレポートか。持ち帰るの重いよな「流体力学」の教科書。どこまで書けてる。……提出期限って、日本標準時準拠だぞ。ハワイとかの二十三日じゃないぞ。まあ、がんばれ。挑戦することは自由だからな。飴... >>>続きを読む
【C01】Old and new ここがお前のロッカーだと示されて、使い古された灰色の扉を二人で見つめたのは二年半とすこし前。心なしか恐る恐るそこを開ければがらんどうの空間があった。何年も使い古されている筈なのに、どこか新しく見えるその空間に、少しだけ胸... >>>続きを読む
【B05】同じ空の下だから 「あかん。ここどこや」 道路標示を見上げた。聞いたことのない地名ばかりで途方に暮れる。 ちょお走ってくるわと言い残して、家を飛び出した。財布も携帯電話も持たずに。 目的地なんてなかった。この感情をどこにぶつければいいかわ... >>>続きを読む
【B04】五つ辻 夕焼け空の色が赤い。 荒北は、一種異様なまでの夕焼け空の色に違和感を覚えなかった訳ではない。ただ、こんな日もあるのかと思いながら夕焼け空を見上げていたのだ。寮まではスクールバスが出ていたが、あの混雑が得意でなかったし... >>>続きを読む
【B03】見上げれば誰にも等しく 「高橋」 「はい、ぼっちゃま」 後部座席から聴こえる落ち着いた声に、男は静かに黒い車を停止させる。 始まりは雨の日だった。部活動から帰宅した彼の依頼で、車を少し走らせたショッピングモールからの帰りのことだった。 ... >>>続きを読む
【B02】やまのあなたのそらとおく ※コミックス未収録箇所(大学編)のネタバレを含む作品です。 入学式は無事に終わりましたか?慌てて用意したスーツでしたがちゃんと着られたでしょうか。これから着る機会も増えていくと思いますから、今度帰ってきたときにち... >>>続きを読む
【B01】腹ペコなケモノたち ロードレーサーという人種はよく食べる。良く食べる割になかなか太れなかったりする。 長時間の過酷な有酸素運動と短時間の爆発的な無酸素運動は、確かにどえらい量のカロリーを消費するのだが、単に本人の体質だったりもして。 「... >>>続きを読む
【A05】『空』 落車の衝撃で虚ろなまま自転車に跨がり、また走り出している。 並走してきたメディカルカーのドアフレームに捕まり、前進しながら治療を受ける。 右肩から背中にかけて擦りむき、砂だらけの裂けたジャージの隙間に消毒液をかけられる。... >>>続きを読む
【A04】空になるまで 自転車走行中、サドルの下に伸ばした左手が空を切った。 「ヤッベ、ボトル忘れた」 荒北は自分の犯した失策に軽く舌打ちする。このまま給水なしで自転車競技部の練習を続けるのは無理だ。そんなことは最近入部したばかりの初心者であっ... >>>続きを読む
【A03】あおぞら日記 九月一日。 新学期の始まりを祝うような晴れ。雲はなし。校舎にかけられた垂れ幕が未だに信じられない。クラスメイトが指さしては、いちいち声を上げていた。信じられなくても、事実なんだよな。身が引き締まる。 九月二十日。 晴れと... >>>続きを読む
【A02】箒乗り 箒で空を飛ぶのは、なにも魔法使いだけではない。 箒乗り、そんな中でもママ箒で遠くまで行く青年がいた。 そんな青年と友人達の日常の話。 「小野田くーん!」 小野田は名前を呼ばれた方を見ると、友人の鳴子と今泉が少... >>>続きを読む
【A01】空席、空虚、空の果て。 その席はいつも空席だった。 真波山岳が小学生まで病弱だったことは、そのころの同級生なら誰もが知っている。真波は頻繁に学校を休んだし、体育は当然のように見学だった。そのたびに真波の居場所は空席になる。そして不思議なこと... >>>続きを読む