A03『シャイニーシャイニー』

  • 縦書き
  • aA
  • aA

 網膜にまで焼き付いたような鮮烈な記憶を植え付けられたのは、多分、後にも先にもコレが最後になるのだろう。
 ほんの十数年ばかりしか生きてない奴がなんて大げさなことをいうのかと笑い飛ばされるのが関の山だと、自分だって思っているから口に出したことは一度もない。けれども、その一瞬を絵や文字に起こせたらいいな、と常々思っている。ただ、そんな才能など、己は持ち合わせていないのが少々残念なのだけれども。
「見ろよこれ、段竹!」
 単に、ただの馬鹿で阿呆なのだといえばそれまでなのだけれど、元々大きな瞳を一段と大きくさせて彼は駆けてくる。手に持った何かは、誰かにはきっと『くだらないガラクタ』に違いない。多分段竹にだってそうなのだ。
「どうした一差」
 けれど彼が感じた事をその拙くて、ちぐはぐに間違った言葉を通して聞くと何かすばらしい価値のあるものに見えてしまう。
 この瞳を通して見る世界は、どんなフィルターがかかっているのだろうか。
「すっげーだろ、この抜け殻!めちゃくちゃかっこよくねぇ?」
 今日の宝物は蝉の抜け殻らしい。どのあたりがかっこよくて、どのあたりがすごいのか、段竹にはちっともわからない。そうか?とだけ返して首を傾げた。けれど別に段竹の同意なんてあってないようなものなのだろう。宝石のように輝いた瞳は曇ることなく段竹に向けられる。
「……お前がいうなら、そうなんだろうな」
 間をおいて答えた濁った言葉にだって返ってきた笑顔は眩しい。そうして何度も段竹の鮮烈な印象を残す。これからも共にいる限り、きっとずっとそうなのだろうと思う。段竹の生きてきた時間の色を塗り変えたその存在に嫉妬した事がないといえば嘘になる。
「キャプテーンーーッ! はざーーーす!」
 少し先の方に見つけた先輩の姿に、一差がスピードをあげて駆けていくのを見送りながら、つい笑みがこぼれた。人の視界を塗りつぶしてしまうほどの鮮烈な色を持っている事を自覚していないのだから、嫉妬など意味はない。
「なにしてんだよ段竹!」
 ほら、早く! そうやって何でも自分を求め、引き上げようとしてくれる光を嫌いになれるほど段竹の心に闇は巣くってないようだ。こちらが動くまで待とうとする大事な相棒へ駆け寄る前に思い付いて一枚シャッターを押した。段竹の不意打ちにきょとんとした顔は一瞬。すぐにセミの抜け殻と一緒にもっかい撮れと言い出してくる。
 今日も変わらない輝きの世話をやいて、ああ、きっとこうやって毎日違う輝きで塗り替えてくれるコイツ以上に出会うことはこの先にないのだろうな、と思うのだった。

 

A03『シャイニーシャイニー』の作者は誰でしょう?

  • えふみや (33%, 6 Votes)
  • ryaosh (22%, 4 Votes)
  • とおこ (17%, 3 Votes)
  • 黒井蓮二 (11%, 2 Votes)
  • さいまな (11%, 2 Votes)
  • 水波 (6%, 1 Votes)
  • はしこ (0%, 0 Votes)
  • (0%, 0 Votes)

票数: 18

Loading ... Loading ...

←A02『色紙』へ / A04『そこに見えるは息を飲むセカイ』へ→

×