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どうしてだか木の上に登っていた待宮が、なんじゃって?と身軽に飛び降りてくる。見事な体重を感じさせない着地に遠慮なく拍手を送ると、サンキューじゃと胸を張られて笑っていると、何だ金城かと、今度は荒北が木の上から顔を覗かす。
「今度は、どんな遊びをはじめたんだ?」
突拍子もないことをはじめることが多い、二人を交互に見ながら尋ねると遊んでねーよと荒北が叫んで、待宮とは違って枝と幹を器用に使って木からおりてくる。
「金城、荒北はともかくワシは木登りで楽しめるほどお手軽じゃないんじゃぞ」
「その割に、はしゃいでいたじゃねえか」
「っ、う……その言葉はオマエに叩き返してやろう」
「オレははしゃいでたからな。しょうがねえ」
言い返すかと思ったら、そのまま素直にはしゃいでいたと言う荒北に、オレもだが待宮も驚きの表情を浮かべる。そして、してやられたわ…とぼやきつつもすぐに気持ちを切り替えたのか、ぎゃんぎゃんといつもの調子で喚きたてる。
「くそっ!卑怯じゃぞ、簡単に認めるなんて」
「オレは素直だからなあ。おまえみたいにヒネてねえんだよ」
してやったりといった表情で、飄々とそんな風に言う姿は心底楽しそうで見ているこちらも楽しくなる。
まあ、ただしその要因となった待宮は、アラキタの癖に生意気なことをしくさってとぶつぶつ言い続けているが、そんな呟きさえも荒北の機嫌を損ねることはないようで、鼻歌でも歌いそうなくらいに機嫌が良い。
「上にあがると何か見えるのか?」
どうにかしてやり返したいのだと、全身で主張しつつ何やら思案していた待宮と、それを上からの目線でにたりと笑いながら見ていた荒北が、オレへと向き直る。
「みえたんだヨ。あ、まだ間に合うか!?」
そう叫ぶと、せっかく降りた木へとまたよじ登り始めた荒北に呆気にとられていると、待宮がちょうまっとり、とその荒北を木の下から見上げる。
こういう阿吽の呼吸のようなものは、チームメイトとして走るようになって良く見られるようになった光景だ。元々、人を観察してその行動を意のままに誘導するのが楽しいとはっつきりと言い放つ待宮と、勘がいい上に人のことをよく見ている荒北は、なんの会話も視線も交わさずにそれぞれがそれぞれの行動をする。
まあそれが見事なくらいに、同じ目的への最短距離だったりするのだから、それにいつの間にか巻き込まれるオレにとっては魔法かなにかのようで毎回驚いている。
ちゃんと驚いているのだが、二人に言わせると当然のような顔をして受け入れて、受け流すのが時々憎らしいと半ばキレ気味に叫ばれたのは相当昔のような気がする。
まあそんな仲間と過ごすことにも慣れて、二人が何かしているのであればそれは静かに見守っていれば、何かには巻き込まれるのだろうとその何かがわかるのを待つことにする。
「どうじゃ?」
「おっしゃまだイケる!おい、金城木登りは得意か?」
そう木の上から言われて、しっかりと頷いて答える。
「生まれてこのかた、登ったことなどないぞ」
「マジか!」
「マジか!」
オレの応えに、二人がほぼ同時に同じ言葉を発するが、ここで嘘などついてもしょうがないと、覗き見てくる荒北にとりあえず手を振ってみる。
「しょうがねえ、オマエのはじめてを今ここで体験だ」
来い、と荒北が手をのばしてくるのにその掌をしっかりと握るのだが、ここからどうしたらよいのかわからず戸惑う。しょうがないのお、と
「やってやれないことはねえじゃろ。まあ、ウチのエースを怪我させるわけにいかんがのお」
気をつけろよ、と暢気に声をかける待宮に荒北は馬鹿なこと言ってんじゃねえよと言い放つ。
「ばっか、そこはオマエが何とかしろ」
「ワシに一任すると、こいつはワシのエースになるんじゃがのお」
独り占めじゃ、とにんまり笑われるのがレース中ならともかくこんなところではなんだかむず痒い。
そう思っているのだが、やはり二人には伝わり切らないのか勝手に会話を進めて言い合いをしていたかと思うと、オレを掴む荒北の手がもう一度しっかり握りしめられて、引っ張られる。
「……オレも出来るだけなんとかする」
「よし、金城もやる気になったんでこの勢いで登らせるぞ!」
「そのまま無駄に考えずに、登ってこい」
「無駄…に?」
「あーそれがアカンのじゃ。ほれ、上に行くぞ」
「あ、ああ。おおっ!登った!!」
「よし、こっちに捕まって立てそして見上げろ!」
「戸惑うなそのまま勢いじゃ」
荒北と待宮の声に無意識で反応する。少し不安定ではあるが何とか立つことができるのに、勇気を貰って言われるがままに視線をあげる。
「ふっ……あ、すごいなこれは」
「だろ?」
笑みを含んだ荒北の声と、特徴的な待宮の笑い声を少し遠い世界のことのように聞きながらうめき声をあげる。
丁度開けた視界の先には、息を飲むような色の乱舞がオレの目に飛び込んでくる。
淡く色づいた花の色と、真っ青な空と白い雲に視線を外すことが出来なくて、そのまま二人へと感謝の声を口にする。
「ありがとう」
この光景なのか、これをみせてくれた二人へなのかわかりづらいオレの感謝の言葉に、二人ともが何でも無いように笑ってくれたのに重ねて幸せを感じる。
まあ、おりる時にちょっとした騒動になったのは、長い間このことでからかわれたのは後の話だ。
A04『そこに見えるは息を飲むセカイ』の作者は誰でしょう?
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