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そのラインを越えた瞬間、オレは自分の勝ちを確信した。ふりあげた拳に迷いはなかった。
インターハイ二日目というものが斯くもオレに厳しいものだとは思わなかった。
昨年の事故の件だけならここまで思わなかっただろう。それが今年の箱学は最強の布陣で臨んでいるにも関わらず、二日目である今日、スプリントも山岳もリザルトが獲れなかったのだ。
――オレが獲るしかない。
端からそのつもりだったが、二つのリザルトを京伏の御堂筋にとられた時点でいよいよ崖っ縁に立たされた。
奇しくもこの瀬戸際で勝敗を競り合ったのは因縁の相手である金城真護だ。先行を許した京伏一年「御堂筋」を共に追うことで、ヤツもこの一年鍛え抜いてきたことが容易に知れた。
だからこそ、金城と正々堂々と勝負することができたことも、その結果として勝利をこの手に掴んだことも、この上とない喜びだった。
同着とはいえ昨日の第一ステージも一位で締めくくっていたが、同じ一位でも意味合いも重みもまるで違っていた。
今、この勝利を手にした瞬間、オレの中で何かが終わり、そして何かを越えることができたのだ。
下級生達が駆け寄ってくる。
自転車は惰性で進んでいる。
まだ胸も喉も焼けるように痛い。ささやかな風ですら心地いい。
そしてこの心地よさの原因が、勝利を得た高揚や勝負が終わったあとの充足感だけによらないことに気づいていた。
青い空とそれに負けないくらい深い青をした湖。木々の緑が強い日差しを跳ね返しながら煌めいていた。
普段練習で走る芦ノ湖周辺とそう変わらない山の景色。
それがこの一年、こんなに色鮮やかに見えたことはなかった。
昨年のことを意識はしていたが、引きずっているつもりはなかった。それでもオレはこの一年、色のない世界を走り続けていたのだ。
だが、それも今日で終わりだ。
ふたたび色彩を取り戻したオレは明日へのレースに想いを馳せる。
インターハイ三日目。第三ステージ。
日本最高峰の山はどんな色をオレに見せてくれるのだろう。
C07『Lac des couleurs』の作者は誰でしょう?
- 天津 (33%, 4 Votes)
- 高橋 夾 (25%, 3 Votes)
- ゆっこ (25%, 3 Votes)
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票数: 12

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