C02『赤』

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目の前を相手の車輪が過ぎ去っていく。
ゴールラインの消火栓下をくぐって、アイツの手が上に伸びた。
自分の下から聞こえるカラカラと回る車輪の音がやけに響いていた。

負けた。

ボトルもサドルも捨てて、鼻血出して、今の自分全部かけて走った。
それでも、勝てなかった。
ダンシングしていた腰を下ろし、ヘルメットを外す。
見上げた空は晴れているはずなのに、眺めた空から頬に雫が伝った。
負けの二文字が頭に浮かび、心は敗北感と自分への絶望感でぐるぐるしている。
言葉にならない想いが、空を見上げたままの目から溢れる。
スプリンターとしての自分はもう走れない。
目の前が真っ暗になって、頭の中が黒く塗りつぶされていく。
スプリンターとして今まで走って来た。
乗り越えてきた。
それなのに、もう走れない。
どうしたらいいのだろう。
黒い想いに塗りつぶされそうになった時に、声が聞こえた。
『闘ってきたってことだろう』
普段明るく大きく笑っている声が、低く響いた。
暗い闇に光が差すように、思い出す。
『お前は負けたことがあるか』
『闘ってきたってことだろう』
『気持ちで負けんな』
響いた言葉に頷き返す。
「はいな、田所さん」
黒に塗りつぶされていた心が田所さんの光にあてられて、白くなる。
約束だから、スプリンターはやめる。
でも、ワイは強くなる。
闘って、闘って、もっと強くなる。
取り戻したるわ。スプリンター!
待っとれ御堂筋。
涙を袖で拭い、前を向く。
ワイは、難波のスピードマン鳴子章吉や。
塗りつぶされた心は、今真っ赤に燃え滾っている。

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