B08『二つの青』

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 海に来た。特に明確な理由があった訳ではない。ただ、練習をしている時に、いつもと違うコースを走ってみるかと思った。自分でも、珍しいと思う。
 季節柄、海は閑散としていた。とはいえ、海のシーズン中の時に、来ようとは思わない。
 俺はうるさないのが嫌いなんだ。
「あれ、今泉くん?」
それは紛れもなく俺の名前で、ハッとして振り向く。
「……真波?」
そこには、ライバル校の同級生がいた。
「何でここにいるの?」
真波は不思議そうな顔で聞く。
何でって、それはこちらの台詞だ。
「練習中に立ち寄った。お前こそ、何で千葉の海にいるんだ?」
「あぁ、ここは、千葉なんだ。だから、今泉くんがいたんだ。俺は気ままに走っていたら、いつの間にかここに」
真波はふわりと笑う。
いつの間にか、で来れる距離か? そもそも、気ままに走っていて県を越えて、県境から離れた場所までやって来たというのか。だが、小野田とは違う意味で迷子になりそうな真波なら、ありえそうだ。
 「海って結構、寒いんだね」
「あぁ」
冷たい潮風が、頬を撫でる。いや、撫でるというより、ぶつかってくる。
「あんまり、君とは話したことが無かったね」
「そうだな」
だから、お互いに相手の情報は少ない。
真波山岳、箱根学園、クライマー。そんなものだ。後は雰囲気とか、ぼんやりと俺が感じたことぐらいだ。
「今泉くんは海に似ているね」
「……は?」
真波が唐突に口にした言葉を、理解出来なかった。
「海みたいな青色をしている」
「そうか?」
俺のどこら辺が青色なのだろうか?
確かに青は好きな色だが。
それに、青色なら……
「真波、お前の方が青って感じだ」 
「そう? 俺、青色は好きだから嬉しいな」
真波は目を線にする。
そして再び開ける。
その瞳はまるで
「空みたいだな」
俺が海なら、真波は空のようだと思った。
どこまでも、自由そうな所もピッタリだ。
「じゃあさ、俺たち、意外と仲良く出来るかも」
「そうかもな」
ぽつりと返事する。
俺にしては、珍しいと思う。今日は、珍しい日なのだと納得する。
 「じゃあ、俺行くよ」
「……これ、やる」
俺は真波に、あるもの渡す、
「ありがとう。俺、これが大好きなんだ」
新しく知ったこと。

 真波山岳はおにぎりが好き。

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