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「写真撮らねぇ?」
急に手嶋に言われて俺は疑問符を浮かべる。
「何だよ急に、ってか、お前カメラ持ってねぇじゃねーか! 現実にない魔法少女を信じる幼女か! 玩具のステッキ振り回して魔法が使えなくて駄々こねる奴か!」
「相変わらずの突っ込みご苦労、黒猫くん」
手嶋が面白そうに頬を緩める。なんか、ムカつく。
「いや、お前んとこの不思議ちゃんがさ……」
と手嶋が少し離れた場所を指さす。
そこには、大きく手を振る真波がいた。
「影の写真を撮りたいって言い出してたんだよ」
影の写真?
俺は良く分からないが、手嶋と二人で真波の元へ向かう。
「今度はなーに企んでんだ? 不思議チャン」
「やだなー、何も企んでませんよ。ほら、今日は天気が良いから」
真波がニコニコと青空に手を伸ばす。
「?」
「天気が良い日にさ、地面の影を瞬きせずに十秒……」
「あぁ、それで空を見たら影が見えるとかいう奴な」
それなら昔、教科書で読んだ気がする。
「ね! しましょうよ! 三人で!」
なんだか色々と突っ込みたい気もしたが、たまにはこういうのも悪くない。
手嶋も同じように思っているのか、三人で並び影を見つめる。
1……6……9……10
きっかり十秒、そして空を見つめる。
ぼんやりと黒い自分の影が空に写る。それは、残像現象らしいが、なんとなく楽しい。
「一瞬しかないものって、良いなぁって思うんです」
真波の瞳は空を真っ直ぐに見つめていた。
ぐ~~~。
腹の虫が盛大に鳴る。それも真波のもので。
「しまらねぇなァ」
「よし、カリーでも食べに行くか」
手嶋が意気揚々と言う。何でカレーではなくカリーなのかは、突っ込まない方が良いのか。
「俺、キーマカリーが良いです!」
って、真波までカリーって言い出した。
「黒田は?」
手嶋が振り返る。
「……カツカリーにする」