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応援は力になる。
照兄ちゃんはどんなに苦しそうな時でも、ボクが名前を呼んで「頑張れ!」って声をかけると顔を上げてニコッとしてくれた。それから力強くうなずいて、ギュンって加速するんだ。
ボクの声が背中を押したんだって。照兄ちゃんはいつもそう言う。一瞬かもしれないけどその時ボクは、照兄ちゃんと一緒にレースを走ってたってことなんだ。
そんな照兄ちゃんを追いかけて入部した総北高校自転車競技部が、インターハイ出場を決めた。サポート組のボクは選手が全力でレースに集中できるように、あんなこともこんなこともしなくちゃならない。できるかどうか不安だけど経験者の照兄ちゃんが一緒だから心強い。
いよいよ大会一日目。
ベテランの照兄ちゃんや三年生の古賀さんが補給を担当してくれて、ボクたち一年生は学連バスでゴールに先回りの応援場所取りを任された。
「あそこがゴールゲートか!」
「ハイペェェェース!!」
バスが停車すると、沢田とゴリ蔵が誰より先に駆け出した。
他の学校はまだ荷物を降ろしてるのに。総北の荷物だってあるのに。けどそれはボクが運べばいいか。
「定時!このへんでいいか?」
「どうだ?ばっちりだろ!」
「おんっ!ベストポジションだなっ!」
各学校の場所取り合戦が終わると、あとは選手がくるまでひたすら待つだけだ。
本部のスピーカーが随時レースの展開を実況してくれる。ボクたちの総北はばっちり優勝争いにからんでる。いいぞ。
「よし、この時間に応援のコールを決めておこう」
「コールってなんだよ?」
ゴリ蔵が首を傾げる。
「みんなで同じこと言った方が声が大きくなるだろ。特にゴール付近は喧騒がすごいから、ボクたちも頑張らないと選手に届かないぞ。でも、自分の名前を呼ばれたらそれだけはわかるらしいけど」
照兄ちゃんがそう教えてくれた。
「それなら今泉さん頑張れか?」
「意外と鏑木がくるんじゃねーか」
沢田の提案をゴリ蔵がまぜっ返す。
「確かにあいつ、先輩をたてるとかしねえしな」
「いかなる時もハイペース」
鏑木が強いのは知ってる。なにしろ照兄ちゃんに競り勝った実力の持ち主だ。ボクたちと同学年の鏑木がきたら嬉しいけど。
けど、けど!
「大本命は去年優勝の小野田さんだ!」
「おほっ、誰がきてもおかしくねえよ。みんな強いから!」
ゴリ蔵が得意気に胸を張る。
「だとするとチーム名で応援するしかないか。そーうーほーく!で、どうだ?」
「ロードレースは一瞬だからそんなゆっくりしてたら通り過ぎちゃうぞ。総北!総北!の連呼がいいぞ」
「それなら面白い動画があるぜ」
沢田のスマホをみんなでのぞきこむと、画面の中で段竹が指を鳴らしていた。
『チッチッチッチッ
俺たち総北 強いぜ総北
今年も獲るぜテッペンを
キャプテン手嶋に頼れる青八木
ダブルエースの今泉鳴子
SO HO KU!SO HO KU!
我らが山王速いぞ小野田
我らがルーキーはしゃげよ一差
今年も俺たち絶対トップは
YU ZU RA NA I !!
総北!総北!総北!ファイッ!
総北!総北!総北!ゴー!』
段竹お得意のラップだ。
「おほっ、段竹かっけー」
「おん、それいいな」
「段竹は古賀さんたちと一緒だよな?早く戻ってこねえかな」
「オレらもやってみるか?」
「総北!総北!総北!ファイッ!総北!総北!総北!ゴー!」
拳を振り回して、声があわさるのにつれて心もあわさっていくみたいだ。これなら勝てる。ボクたちで総北ジャージの背中を押して勝たせるんだ。
実況のアナウンスが間もなくトップがゴールしそうだと伝えて、周囲はどんどん盛り上がっていく。他の学校はゴールに備えてなにやら慌ただしくしてるけど、ボクたちはどうすればいいんだ?
照兄ちゃんたちはまだ戻ってこない。
その時スマホの着信音が鳴り響いた。
古賀さんが早口でまくしたてる。
『オレたちは間に合うかどうかわからない。沢田とゴリ蔵、他の一年だけでゴールの選手を迎え入れる準備をしろ。定時、お前は応援だ』
「え?でも!」
応援がどんなに重要かわかってる。
わかってるからわかりましたとは言えない。
『でもじゃない、お前しかいない!』
いつも温厚な古賀さんが声を荒らげた。よっぽどの緊急事態だ。だけど。
「ボク一人で応援なんて」
選手はギリギリの状態でここまで来る。その最後の一押し。それを、一人で。
「無理だ」
スマホから今度は照兄ちゃんの声がした。
『大丈夫だ定時。できる、おまえならできるよ』
本当に、ボクにできるのか?
「杉元先輩は嘘つかねえ」
「バカがつくほど正直」
横で聞いていた沢田とゴリ蔵がこぼす。
そうだ、照兄ちゃんができると言うならきっとできる。
「おん!総北ファイットォー!!」
「定時、オレらの分も応援頼んだぞ!その後のことはよくわからないけどオレらにまかせろ!」
「ハイペェェェーーース!!!」
沢田とゴリ蔵だって不安なのは同じはずだ。
それでも、ボクたちがやるしかないんだ。
そうしてついにトップの姿が見えた。先頭は三人。大きな二人に挟まれて、ボクたちのジャージを運んできたのは鳴子さんだった。大人と子供くらいの体格差があるのに一歩もひかず張り合ってる。すごい。
「うおおっ!鳴子さんっ!なるこさーん!」
頭の中がまっ白になって、ただ名前を呼ぶしかできなかった。
「鳴子さんっ!鳴子さんっ!」
腹の底から沸き上がってくるのは、ここにいないみんなの声だ。
全身の毛穴が開くほど叫んだ。
「なるこさーん!!!」
力強くゴールをみつめていた鳴子さんは、ボクの前を通り過ぎる瞬間、確かにニヤッとした。それからギュンって加速したんだ。
ボクたちは、選手を影から支える存在じゃない。
ボクたちは、インターハイを一緒に走った。
