E01『君にありがとう』

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「そういえばさあ、幹って差し入れで~すってさ、お菓子作ったり~とかあんまりやらないよね」
「え?」
穏やかな昼休みの一時、親友である綾と、中庭でお弁当を広げながら、幹はそんな事を告げられた。
「普通女マネってさ、そーゆーことやるしやらされるじゃん?」
綾に悪気は無いのは解るし、友達だからこその興味で聞いてくれたのは解るけれど。
「私は…体動かしたり整備したりする方が好きだから…」
ほんの少しだけ、苦しそうな幹に気付いて綾は慌てて顔を覗き込む。
「あ、ごめん、なんか地雷だった?」
「……ん……もうずっと前なんだけどね…年上の、ウチのお客さんなんだけど、いつもありがとうございますって、来てくれる人にクッキーを作ってプレゼントしたの」
いつも明るい幹が溢す言葉に、綾は思わず身を乗り出す。
「ほとんどの人は凄く喜んでくれて…でも、一人だけね、幹ちゃんが作ったの?大丈夫?オイル入って無い?って、笑われちゃって」
「…は…?」
「確かに昔からお兄ちゃんの真似して整備もしてたけど、そんな風に言われるんだって…怖くなってさ。それ以来差し入れとかは何だか作れなくなっちゃって」
困った様に微笑む幹の目の前で、綾の表情がみるみる変わる。
「なっ…にそいつワケわかんないサイッッッテーだ!!絶対ぶん殴ってやる!!!誰か教えなさいよっっ」
綾の咆哮に、周囲の生徒達がびくんと震えた。
「あ、綾ちゃん」
いつもはヒートアップする幹を綾が止めてくれるのに。
怒ってくれる綾の気持ちが嬉しくて、幹は笑った。
「綾ちゃん」
「何っ!!」
「ありがとう」
幹からの感謝に、綾は急に毒気を抜かれて辺りを見回すと、少し紅くなって顔を伏せた。
「別に…感謝されることじゃ…」
「ううん。気にしてないつもりでも、ずっと引っかかってたんだ…でも、綾ちゃんが怒ってくれたから…もう平気だよ!」
「…あ、そ」
紅くなった頬のまま、綾はお弁当の卵焼きを口に放り込む。
幹も、にっこり笑ってからミニサイズのコロッケを口に運んだ。
「じゃあ、平気になったついでに今度私に差し入れしなさいよ」
ふい、と向こうを向いた綾に、幹は嬉しそうに微笑む。
「うん!でも作るの久し振りだから失敗するかも~」
いつもの調子でふんわりと答える幹を綾は視線を戻して眺める。
「…じゃあ私も一緒に作ってやるから」
「えっ」
「ついでにチャリ部の連中にも差し入れてやんなさいよ!あいつらなら、んなバカな事言わないでしょ!」
「…うん!」
「言ったら殴るし」
「うん!」
照れ隠しなのか、弁当の中身をいつもより早く片付けていく綾に、幹は目を細める。
「綾ちゃん、ほんとにありがとう!」
そして、幹も弁当を片付けるべく箸を動かす。
幹の心も、見上げた空も、それは綺麗に晴れ渡り、今日の部活も、これからも、楽しみで仕方がなかった。

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