D09『おいしい』

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 何を食べても味がしない。
だから『おいしい』が分からない。
それでも、生きていく為に食べ物を食べないといけない。
 なんだか、生きてないなぁ。
 
 自転車を始めた。心臓がバクバクして生きてるって感じた。
いっぱい、いっぱいペダルを回した。ペダルが重くて苦しい方が楽しかった。
そうしたら、凄くお腹が空いた。
今まで、お腹が空いたなんて思わなかったからなんだか不思議。
ぐ~~~。
お腹鳴った。
一緒に居た委員長と、パチクリ目が合った。
「お弁当は?」
「持ってないや」
委員長はため息をつく。そして、自分のリュックサックをガサガサする。
「はい」
「良いの?」
委員長から渡された包みをじーっと見つめる。
「いっぱい作ってきたから、あげるわ」
「ありがとう」
包みを開けると、山なりの形をしたおにぎりが、こんにちはした。
パクリ
「おいしい」  
 
 
 
 「まーた、おにぎり食ってんのか?」
黒田さんが、タオルで汗を拭きながら言う。
「今日はツナマヨです」
ペロリ。口元についた米粒を食べる。
「聞いてねぇよ。おめぇは、いきなり聞いてもいない昔の男の話を語り出す年季の入った飲み屋のママさんかよ!」
「雪ちゃん飲み屋さんに行ったことあるの!? すごーい!」
「俺、未成年ですけど!? 例えだよ!」
黒田さんが、葦木場さんに思いっきり突っ込む。
「悠人はお兄さんと一緒で、パワーバーを良く食べているね」
「そうですね。さすがに、好きな味は違いますけど」
泉田さんに答えながら、悠人はパワーバーをひたすら食べる。
練習の後だ、みんなお腹が空いている。
バシくんなんて、端の方で大きなパンを無言で食べている。
「あんまり食べ過ぎたら、夕食が入らないよ」
「大丈夫っス! 泉田さん!」
バシくんの食欲は底知れないようだ。
 
 「ごちそうさまでした」
俺は、指についた米粒まで綺麗に食べて言う。
うん、今日もおいしかった。
 
 お腹が空いた時に食べるおにぎりが、一番おいしい。
 

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