B01『食の才能』

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「公貴、お前って凄いわ」
「・・・・・・・・」
二人から向けられた視線が突き刺さる。ああ、言いたいことは分かってる。だがな、俺も言いたいことはある。
「言っておくが。頼んだわけじゃないぞ。お前らが勝手に『腹減った』って押しかけて俺の夕飯を食べてるだけだからな」
「いや、そうなんだけど。それだから言いたくないんだけど」
「・・・・・これは凄い」
「うるさい。なら、食うな」
自慢じゃないが自炊デビューは大学生からだ。親のありがたみは散々味わった。これでも美味しくなるように努力はしてるんだ。ただ少しだけ自分なりのアレンジを加えてるんだ。それで美味しくなれば最高じゃないか。
「一つ、一つだけ教えてくれ公貴」
さっきから純太がうるさい。声が震えてるのは無視だ。何度も言うが俺は食べてくれと頼んだわけじゃない。
 だけど、無視し続けるといつまでも喚き続けるのは分かっているから、仕方ない、返事をしてやろう。
「なんだよ」
「・・・・・・これ・・・何入れた・・・・・・・?」
純太の質問に即答してやろうと、俺は口を開いて、そして閉じる。
 ・・・・困ったな。俺自身が何を入れたか覚えてないぞ。
「何入れたか覚えてねえの?マジで?嘘だろ?何入れたらこんな事になるの?ファンタスティック?」
「カレーをここまでマズ・・・個性的な味に出来るなんて、公貴は凄い」
歯に衣着せない純太と対照的に控え目に言ってくる一は良い奴だ。褒美に口直しに準備しておいたシュークリームを分けてやろう。
「何でだよ!俺にもくれよシュークリーム!」
「あと一つしかないんだ。お前はカレー食ってろ」
「あと一つあるんだろ!?」
「それは俺のに決まってる。食べたいならコンビニ行って買ってこい。・・・・半分に割るなら没収だぞ一」
「・・・・・・・」
「諦めるなよ青八木!俺たちはチーム二人だろ?!」
「すまん純太。提供者からのオーダーは断れない」
「・・・ううう・・・公貴と青八木が冷たい・・・・カレー美味しくない・・・美味しくないカレーって何だよある意味奇跡だろ・・・何してもカレーは美味しく出来るって言われてるのに何入れたらここまで不味く出来るんだよ・・・・」
文句言うなら食べるのやめろよ。俺一人で何とか片付けるから。
「こんな不味いカレー公貴一人で片付けられる訳ない」
「・・・は?」
俺は今、声に出してたか?
「顔に書いてある」
・・・・一、お前凄いな。エスパーだな。
「はいはい!俺も分かったんですけど!」
純太、お前はうるさい。

 だけど、不味いなこのカレー。不味いというか味がしない。水を入れすぎてしかも煮込みすぎてサラサラだ。茶色いお湯が白米にかかってるだけだな。うん。隠し味を入れたはずだけど全然効いてない。うん。不味い。
「不味い」
「だからそう言ってるだろ?!」
「純太はうるさい」
お前は俺に対して口うるさすぎる。ちょっと黙れ。
「・・・・片栗粉入れたら、固まるかも」
「なるほど。名案だぞ一。もう一個シュークリーム食べるか?」
「あるんじゃん!くれよ俺にも!」
「あと一個しかない。お前はカレー食ってろ」
「それ!さっきも聞いた!!」
 
 カレーは不味い。
 次回は普通に作ってみよう。

 ああ、だけど。
 純太と一がいると、不味いカレーも美味くなってくるから不思議だ。
 来るなと言っても勝手に来るから、次も多めに作っておこう。

 こいつらと囲む食卓も、悪くない。

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