A05『ラーメン二人前』

  • 縦書き
  • aA
  • aA

湯気の立ったラーメンが2つ、運ばれてきた。
1つは大盛りの広東麺、もう1つは味噌ラーメン。
それぞれ1皿ずつ頼んだ肉餃子は、既に平らげてある。
今日は土曜日。綾は友人の寒咲幹とラーメン屋で夕食を食べていた。
朝から始まった自転車競技部・テニス部の練習が午後4時に終わり、そこから一緒に買い物へ行って夕食という流れになったのである。
「やっと来たね」
幹は嬉しそうだ。友人として付き合うようになってから初めて知ったが、見た目の割に彼女はよく食べる。
最初は驚いたが、今は慣れてしまった。むしろ容姿とギャップのあるところに好感を持っている。
「今日は久しぶりに綾ちゃんとここ来れてよかった。」
「私も。最近忙しくてね。」
味噌ラーメンをすすってから、綾は言った。
「テニス部はどう?」
「インハイ予選終わってから、練習きつくなったよ。」
こことかほら筋肉痛でさ、と言いながら右腕を示すと、幹は笑った。
辛くないかと言えば嘘になるが、3回戦負けでインハイに行けなかった悔しさを思えば、大したことはない。
勝ちたいと思っているからだ。
レギュラーとして出場していながら勝てなかった自分のふがいなさに、打ちひしがれる日もあった。一体何が足りなかったのか。そう思う気持ちもあるが、振り返っている暇はない。今はただ、日々練習を積み重ねるだけだ。
「最近日曜日に走ってるでしょ。裏門坂上ろうとしてるとこ、お兄ちゃんが配達途中で見たんだって。」
幹は言ってから、広東麺をすすった。
「ばれたか。あそこ超キツそうだし、走るにはもってこいかなって思ってさ。」
裏門坂での練習を始めたきっかけは、自転車部がトレーニングに使っていると知ったからだ。
全国の舞台に立った彼らの練習は、競技の違う自分にも参考になるのではないかと思い、走ってみる事にしたのだ。
(想像以上にしんどかったけどね…)
自分の足で走ってみて感じたが、脚が全然進まない。走る時は頑張って一歩ずつ足を進めるが、本当はすぐにでも止めたいくらいだ。
あれをママチャリで上っている小野田は、凄すぎる。
「あと、筋トレもやってる。」
「頑張ってるね、綾ちゃん」
「それをいうなら、アンタだって頑張ってるじゃん。弱音も言わずに仕事して、えらいよ」
自転車部のインハイの応援に行ったとき、幹の仕事ぶりを見た。
ロードレースの裏方の仕事は結構大変だ。朝は早いし、意外と過酷である。
それでも幹は辛さを見せず、一生懸命やっていた。
「休む時はちゃんと休みなよ。幹に何かあったら私嫌だし、自転車部の皆も困ると思う」
「…ありがとう、綾ちゃんもね。」
「私に力になれる事あったら言ってよ。出来る事ならやるからさ。」

「お待たせしました、杏仁豆腐です。」
「わぁ、おいしそう。」運ばれてきた杏仁豆腐を見て、自転車の話をする時のように幹は目を輝かせる。
「いつもホントよく食べるね、アンタ。」「今は腹七分目だもん。」
先程大盛り広東麺を完食したはずの幹は、平然と言う。綾の方はと言うと、お腹いっぱいである。
「おいしい…」
杏仁豆腐を一口食べた幹はそう呟く。
友人の幸せそうな表情に、不思議と綾は癒された。

「今日は楽しかったね。」
「私も色々買えてよかったわ」
会計を済ませ店を出てから、2人は歩いていた。
部活の練習は疲れたけれど、幹と楽しく過ごせて今日は良い一日だった。
「ねえ、綾ちゃん」
「何?急にどうした」
「もし日程が合えば、綾ちゃんのインターハイの試合見に行ってもいい?」
「いいよ。来年は絶対、インハイに出るから。」
今年は3回戦で綾達が負けた相手が、インハイに出た。その学校を倒し、来年は総北高校テニス部が全国へ行く。
「自転車部のみんなと一緒に行くね。」
「テニスのルールわかんの?」
「大丈夫、みっちり教えるから。」笑いながら幹は言った。

「どうするかな…。」
帰宅してから、綾は明日の練習メニューを考えていた。
(幹や自転車部の皆も、頑張ってるもんな)
今年の夏、自転車競技部のインハイで感じた熱気を、綾は今も覚えている。
来年は最後の夏だ。後悔のないよう、出来ることをやりたい。

A05『ラーメン二人前』の作者は誰でしょう?

  • siwasu (70%, 7 Votes)
  • 茜子 (10%, 1 Votes)
  • sato布団 (10%, 1 Votes)
  • 黒井蓮二 (10%, 1 Votes)
  • (0%, 0 Votes)
  • たます (0%, 0 Votes)
  • 天津 (0%, 0 Votes)
  • える子 (0%, 0 Votes)
  • チイコ (0%, 0 Votes)

票数: 10

Loading ... Loading ...

←A04『茗荷』へ / A06『プリン攻防』へ→

×