【A02】箒乗り

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 箒で空を飛ぶのは、なにも魔法使いだけではない。
 箒乗り、そんな中でもママ箒で遠くまで行く青年がいた。
 そんな青年と友人達の日常の話。
 
「小野田くーん!」
 小野田は名前を呼ばれた方を見ると、友人の鳴子と今泉が少し離れた場所で、飛んでいた。
「今から、めっちゃ嫌やけど、しゃーなしに友達おらんスカシと箒レースに行くんやけど、小野田くんも一緒に行かへん?」
「誰が友達がいない、だ。というか、俺の方こそ、こんな目立つ赤髪の奴と一緒に飛びたくない」
「目立ってなんぼやろ! ほんま、スカシは話の分からん奴やな~。なぁ? 小野田くん!」
「話が通じないのは、コイツの方だよな? 小野田!」
「え、えっと……」
 友人二人に詰め寄られて、しどろもどろになる。
「あ、僕、その、用事があって」
「用事?」
 今泉が小野田に尋ねる。
「クモバに行くんだ! 今日発売のマニュマニュガチャを回しに! 黄マニュが出ると良いなぁ」
「かっかっかー! それは最優先事項やな! ほな、また明日!」
「目当てのが出ると良いな。またな」
「あ、うん。二人とも頑張って!」
「「コイツには絶対負けへん(負けない)!」」
 
 小野田は二人と別れてから、雲葉原……通称、クモバにママ箒で向かう。
「うわぁ!」
 途中で、突風が小野田を襲う。山の天気は変わりやすいと言うが、空の天気や風は更に変わりやすい。
「飛ばされ……」
る、と思った瞬間、箒が何かに掴まれて安定する。
「大丈夫?」
「っ!」
 そこには真波山岳。風に愛された彼が笑っていた。
 ひとまず、風が落ち着くまで雲のベンチに腰掛ける。
「ありがとう、真波くん」
「間に合って良かったよ。どこに行こうとしてたの?」
「クモバに行こうと思って」
「あぁ、坂道くんが好きな場所だよね」
「うん。真波くんはどうしたの?」
「あぁ、友達が南の国に行くって言うから」
 お見送りかな? と小野田がニコニコしていると
「一緒に行って来て、今帰ってきたんだ」
 とんでもない答えが帰って来た。いや、南の国に行くこと自体は、真波にとっては常ではあるだろうが、行ってすぐに帰って来たことに驚く。
「ど、どれぐらいかかったの?」
「早い子だったから、一ヶ月ぐらいかな」
 事も無げに言う真波。小野田自身も、遠くの雲葉原に毎週通ってることを言うと驚かれるが、真波の場合は距離どうこうの問題ではない。
 
「そろそろ、風が落ち着いてきたね」
「あ、本当だ!」
 これで雲葉原に行くことが出来る。嬉しいが、久し振りに会えた真波との別れは、少し寂しい。鳴子や今泉と違い、また明日とは言えないから。
「俺も一緒に行こうかな」
「え、本当に?」
「坂道くんの好きな場所。俺も行ってみたいし。行こう!」 
 ぶわっ、そう言って真波は自らの羽根を羽ばたかせる。
「うん!」
 小野田は頷きながら、羽ばたく真波の後を追う。

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