【A05】フェイズ99を背負う彼

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 並んだ影絵法師の大きさはちぐはぐで、身長は負けているのに影はこちらの方が大きい。
日差しの当たる角度によるのだろうか。
山口はそっと、隣を伺った。
正面を見ている目が大きいなと思った。
ぎょろりと動いた黒目がこちらを向いて、開いた口が「何を見とるん、キモ」と言葉を吐く。反射的に萎縮しそうな体に力を入れて踏ん張ると、不思議と、恐怖だとか威圧感が薄れて感じた。
「い、いや。御堂筋くんの目が大きいなと思ってつい見とっただけや。すまんな」
「目ぇ?」
 虚を突かれたのか、御堂筋の顔から一瞬だけ驚いたような表情が現れて。すぐに消えてしまったけれどそれは年相応のあどけない顔をしていたように、山口には映った。
(そんな顔もするんや、こいつ)
「キモ」
「はは、すまんな」
 ずっと不思議だった。どうして石垣や水田は恐れもせずに普通に御堂筋と話せるのかと。
(俺やったら絶対に無理や)
そう思っていたけれど、案外いけるかもしれない。
 それから山口は、御堂筋と話す前に影を見るようになった。少し離れた場所に立って、長く伸びた自分の影に勇気をもらう。
石垣に良心になれと肩を叩かれて、何で俺なんやと理不尽に思った日もあるけれど、きっとそれには彼なりの理由があるのだろう。
「それにしても、今日もアイツの影長いなあ」
虚像は細く長く、本物は実際よりも大きく恐ろしく。
(俺は俺なりに頑張らな)
 
 山口紀之、ゼッケン113番。
彼は今日もひっそりと影を見つめている。

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