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気づいたら俺は紅茶を飲んでいた。首を傾げながらもティーカップも傾ける。
「ミルク入れますか? クッキーもありますよ」
「あぁ、頼む」
ふわりと現れた謎の男……。いや、謎の男と呼ぶには見知った顔過ぎる。その男は静かにミルクを注ぐ。
ミルクティーへと変化を遂げたそれを口に運ぶ。
周囲を見渡すと、ただ広い真っ白な空間に、ありとあらゆる形をしたドアがでたらめにあった。
「お前さ、俺達が何でここにいるか分かるか?」
「あなたが、ここにいる理由は分からないですけど、俺はここの番人ですから」
「番人?」
何とまぁ、大層な役職についたものだ。
「鍵は大切にした方が良いですよ。ドアを開けられるから」
「?」
自分の首もとを見ると、ファンシーで派手な鍵がぶら下がってた。
「これは……って、いないし」
視線を鍵から男に戻そうとした時には、男の姿は消えていて、代わりに銀色に輝く飾り気のない鍵が机にあった。
鍵には紐もあったので、首にぶら下げた。
分からねぇな。
どれぐらい時間が経ったのだろうか。紅茶用に砂時計がある。それを何度か引っくり返していたが、すぐに飽きた。
紅茶も十二分に飲んだ。そろそろ、行動するか。
立ち上がり、一番近くにあったドアを開け……ようとするがガチャガチャと拒絶の音がするだけだった。
ドアには、小窓が付いていた。ドアに小窓なんて変だなぁと思いながら覗いてみる。
「はっは、マジで何だよこれ」
思わず乾いた笑いが零れる。
小窓から見えた景色は、俺がインターハイに出ていた。何ら不思議なことはない。
2年生の俺でなければ。
他のドアはどうなっているのだろうかと、いくつか見ると、どれもこれも、俺が知っていることと異なっていた。
それもまぁ、何だか意図的に俺にばかり都合の良い景色ばかりだった。
神様も俺ばかり贔屓して、どうしたのかと言いたくなるぐらいに。
「ドアを開けられる……ね」
ならば、好きなドアを選んだら、俺はその世界で生きられるということだろうか?
それならば、俺が選ぶのは……。
「なーんてな」
俺は鍵をぱくり。食べてしまう。
見た目は完全に鍵だが、口に入れた途端にクッキーになる。
そして、小窓も何もないドアを、ファンシーな鍵で開ける。