【G02】それでもオレはオレを愛そう

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 キャノンデールがバイクラックに掛けてある。
 オレのバイクだ。
 サイジャのポケットから鍵を取り出して、ワイヤーの鍵穴に刺す。
 が、なぜか、刺さらない。
 鍵を間違えただろうか。
 そんなはずはない。
 じっと鍵を見ていると、「触るな」と後ろから声がかかった。
「オレの自転車に何してんだよ」
 え?
 目の前にあるのは、キャノンデールだ。
 オレの、キャノンデールだ。
 反論しようと振り返ると、こちらを見る強い視線と目が合った。
 ……オレ?
 中学の時の、オレ、手嶋純太がそこにいた。
「エリートが凡人のバイクに何の用だ?」
 目の前の手嶋純太は、憎々しげな、強い瞳でそう言った。
 エリート?
 ふとバイクラックの横のガラス窓を見ると、そこに、映るオレと思しき人影は、今泉のものだった。
 意味が分からない。
 今のオレは、今泉? 「あんまり成績が悪いから、何か仕掛けでもしてハンディを付けてるとでも思ったか? んなわけねーよ。ま、オレのことなんざ、知らねーか。たまたまそこにオレのバイクがありましてってわけだろ。気になったんだよな、自分より弱いやつらのバイクがどんなのか」
 中学生のオレがオレ(おそらく、目の前のオレには今泉俊介に見えているだろう)に呪詛のような言葉をかけてくる。
 あぁ、オレは、こんな顔をしていたわけだ。
 こんな顔で、一人で走っていたのか。
 最悪だ。
 勝てるわけがない。
 つい、口元が歪んだ。
「何がおかしい!」
 流石オレ。相手の表情には敏感だ。
 右手を見る。グローブをはめていない手。でも、オレには見える。ここにあるべき、「必」の文字。
「--な」
 世界中を恨んでいるような男に声をかけようとしたら、視界が歪んだ。
 
 
「あ……」
「純太。うなされてた」
「わり。起こした」
「普通に目が覚めただけ」
「そか」
 窓の外を鳥が通り過ぎる。住宅地では聞こえないような鳥の声が響く。
 合宿3日目の朝。
 今日は――。
 ジャージと共に枕元に置いていたグローブを右だけ嵌めて、「必」の字を握る。
「青八木ィ。今日だ」
 青八木が無言で頷いた。
「行くぞ。鬼ごっこの始まりだ」
「あぁ」
 
 --なぁ、エリートを羨んで羨んで、悔しすぎて恨んですらいる中学生のオレ。教えてやるよ。おまえはもう、一人で戦わなくてもいい。そんで今日、おまえはチーム二人でエリートを追い落とす。

×

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