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やっばい!プリントがねえ!
明日の一限に提出しなきゃいけねえ英語のプリント。教室……からは確かに持って出た。リュックに入れた覚えがある。そのリュックにねえってことは……あ!あん時か。部室で着替える時にリュックから出したような気がする。ってことはロッカーの中だ。帰りになんで気づかねーんだよオレ!
寮や部活で仲いいやつはなぜか英語の担当教室が全員オレと違う。朝イチで部室にプリント取りに行っても写させてくれるやつがいない。
時間はもうすぐ9時になるところだ。よし、点呼には間に合う。
決断すると同時にオレは立ち上がっていた。寿一の部屋へ向かう為だ。
「部室の鍵なら先週から泉田と黒田に引き継いだ。知らなかったのか?」
「ああ、知らなかった」
とは言ってみたが記憶を辿れば尽八がそんなようなことを言っていた気もする。
実際のところ自由参加とはいえオレたちの学年もまだまだ練習に出てるし、ロッカーも明け渡してない。鍵の管理なんて自分には関係ねえと思って聞き流してたけど、なんてことはない、関係大ありだったわけだ。その鍵を寿一が持っているか持っていないか――この違いはオレにとっても大きな違いだった。
ガックリと肩を落とし部屋を出て行こうとするオレに寿一が声をかけた。
「泉田なら風呂の使用時間ギリギリまで筋トレしているはずだから、部屋に行くなら今だぞ」
「いや、部室行くのは明日の朝にする。寿一や尽八が持ってんなら鍵借りて夜にこっそり部室入るのもアリだなって思ってたけど、もし万が一何かあって泉田や黒田に迷惑はかけられねえ」
「それもそうだな」
寿一はなぜか少し嬉しそうな顔をしてオレを部屋から送り出した。
インターハイが終わってから、部からオレたちの場所が少しずつなくなっていく。オレがプリントを忘れたあのロッカーを後輩達に明け渡す日もそう遠くない。
なんだか寂しくなるな、と少し肌寒くなってきた廊下を歩いていると当の泉田にバッタリ出会った。
「新開さん!えっと……福富さんの所にいらしてたんですか?」
オレが歩いてきた方向をチラっと見やって泉田が言う。
「ああ。泉田はこれから風呂か?」
「はい。トレーニングの前に一度入っているので、シャワーで汗を流してくるだけですが」
「そうか。相変わらず精が出るな」
そう言って泉田の肩を軽く叩いてやると、泉田は晴れやかな顔でハイ!とひときわ清々しい一言を返してきた。
何がどう繋がってるのかわからねーけど、泉田を見てると妙に安心してきた。
こいつは誰よりも早く部室へ行き、練習前には筋肉を温めているだろう。
朝練の時間に行くのは久々だ。早朝はもう寒いかな、とオレは首をすくめながら自室へと急いだ。