【B02】鍵のかかった部室

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よく晴れたある日の放課後。

「あああぁぁぁっっっ~~~!!!」
世界の終わりの三秒前のような悲鳴が部室に響き渡った。
「なんやなんや?」
「大丈夫かい?」
脱いだ上履きの片方を頭上に振りかざした鳴子と殺虫剤を構えた杉元が、悲鳴の主である小野田の元に駆け寄る。
「あ、Gではないよ」
二人を見た小野田は、自分より慌てた人を見ると冷静になれるの法則に従って、落ち着いてこたえた。
「だったら一体なんなんだ?」
三歩さがって鞄でガードの姿勢のまま今泉が尋ねた。
「僕の黒マニュがいなくなってる」
「は?」
「え?」
「それは?」
四人が覗きこんだロッカーの中では、いつも小野田が部活前後に愛でているフィギュアがファイティングポーズをとっていた。
「これは僕のじゃない。僕のはウィンクしてるんだ」
なにがなんだかわからないというように首を左右に振って、小野田は盛大にため息をついた。
「そいつはつまり、入れ替わり密室トリックが発生したってことか」
突然部室の角から声がかかった。
「なんやパーマ先輩、いつの間におったんや?」
「おいおい最初からいたぞー。部室の鍵を開けたのは俺だからな?」
「ってことは、犯人は手嶋さんスか?」
「交換したいなら言ってくれればいいのに」
「ちょっと待て、俺じゃねーよ。な?青八木」
隣で青八木がコクリと頷く。
「ああ純太。俺はずっと一緒にいたからわかる、純太は犯人ではない」
「率直に言うと青八木さんの証言は信用できないというか、それはその青八木さんが信用できないのではなくて、つまり手嶋さんを庇う可能性というか」
杉元がまどろっこしいことを言い始めた。
「よしわかった。疑いを晴らすためにこの謎は俺が解いてやる。小野田、最後に自分の黒マニュを見たのはいつだ?」

小野田の証言
「昨日は練習が終わって着替えたあと、ロッカーの中の黒マニュにまた明日のサムズアップをしてから扉を閉めました」

鳴子の証言
「昨日の帰り、ドベはスカシやったな」

今泉の証言
「鳴子と一歩しか違わなかっただろ。部室の鍵をかけたのは俺です」

杉元の証言
「部室の鍵といえば職員室で保管してるじゃないですか。そういえば今日の昼休みに」

ガタンっ!と大きな音がして、全員がドアに注目。
「なんだお前達、くだらない話してないでさっさと練習開始しろ」
古賀が冷たく眼鏡を光らせた。
「まあそう言わず、公貴も俺の身の潔白を証明するのに協力してくれよ」
へらりと頼む手嶋に明らかに不機嫌になる古賀。
「俺は手嶋の潔白を信じるぜ?だからその話はここまでだ」
続いて現れた田所に反論できるものはいなかった。

犯人はともかく黒マニュはどこにいったのか。
がっくり肩を落とす小野田に傍観していた巻島がコソッと耳打ちした。
「心配すんな。たぶん練習が終わる頃には帰ってくる」
「えええ?どうしてわかるんですか??」
「なんとなくショ」

練習が終わって部室に戻ると金城が待ちかまえていた。左手に掲げているのはウィンクしている黒マニュ。
「あああっ!僕の黒マニュです!ありがとうございます!!!」
「みんな驚かないで聞いてくれ。俺は物体を瞬間移動させる能力を手に入れた」
金城が黒マニュに右手で布をかぶせ、パチンと指を鳴らしてから取り除くとそこにはなにもなくなっていた。
「小野田、ロッカーを開けてみろ」
ロッカーの中にはウィンクしてない黒マニュ。
「・・・・・」
どうリアクションするのが正しいのか誰もわからない。
「金城、仕込みの時点で間違えてるぜ」
「とりあえずみんなに謝るショ」
「フッ、どうやら新作マジックは失敗のようだ。微妙な空気に変化させてしまってすまない」
サングラスの奥の目は少しだけションボリしているようにみえた。
「あのー、瞬間移動じゃなくて表情を変えるマジックはどうですか?」
手嶋が提案する。
「あ、これ、ポーズも変えられるんですよ!」
小野田も同調。
「うむ、同じポーズにさせるため拝借した時、入れ替わってしまったのだな」
「どうせならもっと派手でズギャーンなるのがええな」
「鳴子が人間大砲の弾になればいいんじゃないか」
「もしかして金城さん、昼休みに準備してたんですか?」
「鋭いな、杉元」

部室の鍵はその部に所属していれば誰でも借りられる。
そもそも密室トリックなど最初から存在しなかったのだ。

ところで問題です。
この部は一体、何部なのでしょうか?

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