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雨の日が多くなって来たこの時期、ただでさえ屋外の練習が減るから気分が下がるというのに今日の献立メニューを見てさらにテンションが下がった。
「ピーマンかよ……」
今日のメニューの一つである野菜炒めの中に入っている緑の野菜、ピーマン。オレは昔からこのピーマンがどうしても食べられなかった。口に入れて噛むと感じるあの苦みがどうも駄目だったからだ。
だが、昼と違って朝ご飯のメニューは選べないので渋々受け取り席に着く。
辺りを見渡した。誰か知り合いはいないか見たが誰もいなかった。この時間ではまだ大体の人は寝ているだろう。
知り合いにピーマンを押し付けることが出来なくなった今、さてこのピーマンをどうしようかと溜め息をつきそうになったとき、後ろから声を掛けられた。
「悠人?」
「おはようございます、葦木場さん」
二メートル近い身長と右頬の黒子が特徴的な箱学チャリ部のエースである葦木場さんだ。
「隣いい?」
「はい、どうぞ」
「ありがと」
葦木場さんは山盛りにのせられた朝食をオレの隣に置いて食べ始めた。
「ゆうほもはへなお」
口いっぱいに入れてリスみたいな顔になった葦木場さんがなかなか朝食を食べ始めないオレを見て言った。
「……はい」
いつまでもダラダラと時間を潰す訳にもいかないので覚悟を決め、野菜炒めを一口掴んで食べる。
……にっが!!
ピーマンを口に入れた瞬間に感じ、噛むと口の中に広がるピーマンの苦みにオレは眉をひそめた。
そんなオレを隣から見ていたようで、口の中の物をすべて食べてから葦木場さんは口を開いた。
「悠人、野菜炒め苦手なの?」
「野菜炒めと言うか、ピーマンが駄目です」
オレは皿の上に載っているピーマンを睨みながら答えた。
「『野菜は人間の成長に必要な栄養素が多くあるのだぞ。ロードレーサーたるもの、日々の食事から気を使わなければいざという時力が発揮できん! 常日頃から栄養バランスを考えて食べておけ!』これ、昔ある人に言われた言葉なんだけど、まったくもってその通りだと思うから悠人も好き嫌いしないで食べた方がいいよ」
葦木場さんはどこか懐かしむような、苦しそうな、誇らしげな、そんな複雑な顔をしていた。
「それはまあ、分かってますけど……」
ごにょごにょとつぶやくオレに葦木場さんは柔らかく笑った。
「まあ、苦手な物はいつまでたっても食べれないもんね。オレがどうしてもゴーヤだけは無理ですって言ったら、さっきの人は苦手な物を食べる時は息を止めて食べてるって言ってたよ」
一度は聞いたことがある方法だが試したことは無かった。なのでオレは葦木場さんのアドバイス通り息を止めて食べてみた。すると先ほどよりはピーマンの苦みが無くなった気がする。
「ありがとうございます、葦木場さん」
オレがお礼を言うと葦木場さんはほんわか笑った。
「悠人が食べ終わらないと一緒に走れないからね」
葦木場さんの何気無い言葉にオレは一瞬流されそうになったが慌てて葦木場さんに確認した。
「今日、一緒に走ってくれるんすか!?」
「後輩が頑張ったら褒美をやるものだってあの人言ってたからね」
「マジっすか! あざーっす!!」
誰だかよくわからないがマジありがとう。オレは早く葦木場さんと練習するために野菜炒めを搔き込んで食べた。
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